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初 夏

 目には青葉 山時鳥(やまほととぎす) 初鰹(はつかつお)  
                             山口素堂

 5月23日早朝、ウオーキングに出た。
玄関を出ると、以外に近いところでほととぎすが鳴いた。今年の初音である。

 いつものコースを歩く。次第に明るくなってきて、青葉の丘や田植を終えたばかりの水田に朝日が差してきた。整然と植えられた早苗の列が美しい。

 製茶工場ではもう仕事を始めている。新茶の香りが辺りに漂っている。パロデイ一句思いついた。「目には青葉、山時鳥 茶の香」。

 掲出句には、「鎌倉にて」という前書きがあるそうだ。目のためには青葉、耳のためにはほととぎす、、鎌倉名物の初鰹を添えて、味覚まで動員する。初夏の最も爽やかな景物が鎌倉にあるという意だと解説がある。鎌倉に限ったことではない。入梅前は日本中どこでも最も心地よい季節だ。
芭蕉に「鎌倉を生きて出でけむ初鰹」がある。行き先は江戸。江戸子は初鰹を大いに好んだ。初鰹は目と耳にはタダだが口には高くついた。「俎板に小判一枚初鰹」という句もある。

 そんな高価なものを江戸っ子は、「女房を質に入れても」、口にした。「宵越しの金は持たない」のが彼らの美学だから、
「後は野となれ山となれ」、贅沢はつとめて排除して、老後の備えにお金を貯めるなど考えなかったかもしれない。

 それにしても、彼らの老後はどうだったろう。老いて収入が無くなったとき、どうしたろうと思う。年金があったわけでもなかろう。子供が面倒をみたのかもしれない。それとも自分で生活費が稼げなくなるほど、長生きしなかったのだろうか。自分で自分の始末が出来なくなったら、コロットと逝くのも良い。

 娘がオーストラリヤから帰ってきた。途中、所用で大阪に2日滞在。その間友人宅に泊めてもらった。友人の家族とフランスレストランで会食した。ワインをオーダーしたらセフがテーブルに来て、ワインで私の料理を楽しんでいただいて、と礼を言ったという。あちらでは晩餐にはワインを飲むのはごく当たり前のことだから、びっくりしていると、最近は、来客が減った。その上ワインまで注文する客はあまりいない。節約しているでしょうね、と彼は言ったという。

 当今の日本人のいじましさが分かった。
年金制度や医療制度を信頼できない。子供が老後をみてくれると期待できない。
頼りになるのはお金だと、貯蓄に励む。
すると消費が低迷するから内需が伸びない。景気が上向かない。税収が落ちる。消費税を上げる。国民はますます財布の紐を締める。悪循環になっている。

 「オーストラリヤはどうかね?」。「税金は高いが、社会保障はしっかりしているから、将来に不安はないわね。」と娘が言う。

 後期高齢者間もない私。自分が栽培した鞘エンドウをオリーブオイルで炒めて、鰹の削り節をまぶして、それを肴に焼酎のお湯割りをちびりちびり。結構いける。

 初鰹は口に入らないが、山菜や新鮮野菜がある。青葉若葉に囲まれて、鶯もホトトギスも聞える。間もなく蛍が我が家の庭に紛れ込む。製茶工場を仕切っている友人が新茶をプレゼントしてくる。結構な老後生活だと、分かってきた。

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コラムニストプロフィール

槙原 茂 (まきはら しげる)

元公立高校教員という経験を活かし、情緒、風情あるコラムを掲載します!

【 経歴・バックグラウンド 】

  • 1940年旧大原郡加茂町に生まれる。現在まで雲南市加茂町在住。
  • 1944年父戦死
  • 1963年島根県の公立高校教員に採用される。以後定年退職まで島根県内の 幾つかの高校で英語を教える。
  • 1995年10月から島根日々新聞でコラム『木漏れ日」、「プリズム」に拙文を寄せる。

【 家 族 】
母、妻、長男(東京在住)、長女(シドニー在住)

【 著 書 】
詩集: 『水脈』
エッセイ集: 『四季の賦』、『終着駅にて』

【 趣 味 】
山歩き、スキー、釣り、詩作

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